Profile

プロフィール
広川雄一(仮名)、28歳。石川県出身。私立大学経済学部卒(写真部)。 大学を卒業後、ファーストフードチェーン店に就職。入社から6年、先輩社員の退職がきっかけで、行政書士の資格を目指すようになる

(c)2009 行政書士 合格体験記

(4)ダメもとで受けた、1年目の行政書士試験

『合格はムリだけど、まぁ受けるだけ受けてみるか』。
行政書士試験の受付締切は8月、その頃の僕はもう前向きだった。本試験があるのは毎年11月だ。そして、ホームページで行政書士のことを調べてみると、大体のサイトが「合格には最低1年の勉強が必要」と書いている。
試験まであと3か月しかないのだから、どうやったって試験の準備なんかできるはずがない。でも、試験会場の様子を見るだけでもいいと僕は思っていた。物事はなんでも、ちょっとだけでも先へ進めておいた方がいい。そうすれば、必ず何か新しいいいコトが起きる。

その日僕は、書店で書棚とにらめっこをしていた。新宿の○○デパートに入っている大きな書店だ。僕の趣味はカメラだ。大学でも写真部の部員だった。だからいつもなら僕が立っている書棚はフォトグラフィックのコーナーと相場は決まっていた。でもその日はちがった。僕が探していたのは、行政書士のテキストだった。
『すげーっ、こんなにあるんだ』と、正直少し驚いた。書棚の一角が上から4段、行政書士の参考書だけで埋まっている。『こんなに置いてあっても売れるんだ。
行政書士って人気あるんだ…』、ちょっと複雑な気持ちだった。資格として人気があるのはいいことだけど、つまりそれだけ行政書士を目指すライバルも多いということ。だけど弱気になってはいられない。

『今年の合格はムリ。でも来年は本番勝負』。
僕はもう、翌年のことを想定して教材選びをしていた。だからなるべく内容の充実した参考書を選びたかった。書店へはネットである程度の下調べをしてから出かけていた。リストアップしておいた3つの出版社の教材はどれも書棚に並んでいる。
どれもけっこう厚い。30分は書棚の前に立ったままで、僕はお目当ての教材を見比べていた。そしてやっぱりリストの1番目に挙げていた出版社の、基本テキストと問題集を買うことに決めた。2冊で6000円ちょっと。これで1年半後に行政書士になれるのなら安い買い物だ。

会社には、行政書士の勉強をしていることは黙っていた。コソコソ隠れて勉強することに少し抵抗はあったけれど、そのことを話してなにか人間関係がギスギスするのはイヤだったからだ。もちろんバイトのみんなにも黙っていた。それで気づいたのは、勉強したい気持ちはあっても、仕事と勉強を両立させようとすると、思っていた以上に学習時間が取れないことだった。

店長として店舗をきりもりする勤務時間は午前10時から午後6時まで。もちろん残業もある。これはアルバイトさんたちのシフトの兼ね合いにもよるが、店を後にできるのは早くて午後8時、10時までサービス残業をしなければいけないこともザラにあった。

帰りの電車のなかで参考書を読む努力は続けたが、部屋へ戻ると、だいたいもう体はぐったりしていた。『俺ってやっぱりブルーカラーなんだな』って、ちょっとだけ自虐的な気持ちになることもあった。

それからあっという間に3か月が過ぎた。11月の日曜日、僕は中央線沿線にある某大学の教室で、行政書士の試験を受けていた。
もちろん受かる自信なんかさらさらないけど、それでも1問でも余計に正解したい。択一式の問題も多いから、いくらなんでも〇点はないだろうと踏んでいた。しかし出題の半分近くは問題の趣旨さえわからなった。
当たり前だ、部屋で問題集を解いている時もそうだったから。試験会場に来たら急に問題が分かるようになるなんてあり得っこない。僕は、まるで他人のことを見るように自分を批判しながら、それでも試験時間の3時間しぶとく粘った。試験会場を後にする時、それなりの達成感があった。

年末のクリスマス商戦のなかで、冬はあわただしく過ぎていった。店長の僕みずから、サンタクロースになって店頭に立った日もあった。『来年も再来年も、俺はこんな格好をして店頭に立つのだろうか?』。

寒空のなかでそんな自問もしたが、それでもクリスマス用の特注ケーキやチキンが売れていくのは結構うれしかった。だが焦りもあった。行政書士合格に必要な勉強時間は1年間。もう12か月分の1ヶ月は過ぎているのに、これといった対策ができていない。どうすればいい?


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