Profile

プロフィール
広川雄一(仮名)、28歳。石川県出身。私立大学経済学部卒(写真部)。 大学を卒業後、ファーストフードチェーン店に就職。入社から6年、先輩社員の退職がきっかけで、行政書士の資格を目指すようになる

(c)2009 行政書士 合格体験記

(3)映画女優に似ていた韓国人留学生

仕事場までの最寄駅から、僕が店長を勤めるフードショップの途中には、専門学校がいくつかあった。○▲電子学校とか、コンピュータ技術を教える学校が多かった。
海外から留学している学生も多く、その通りを歩いていると、いつも中国語や韓国語が聞こえてきた。僕には彼らが何を話しているのかさっぱりわからかったけれど、日本の国際化がどんどん進んでいることだけは肌で感じていた。

その日一人で昼食をしようと専門学校のあたりを歩いていたら、通り沿いの雑居ビルから韓国の女性(おそらく専門学校の学生)が連れ立って出てきて、僕の前を通り過ぎた。明るい表情だったが、無邪気に言葉遊びをしている感じではない。
どちらかといえば、何か大事なことを済ませ、ホッとしている様子だった。間もなく今度は別の外国人学生が、その雑居ビルに入っていった。彼はちょっとだけ緊張している様子だった。

『このビルに何があるんだろう?』、僕のなかでちょっとだけ好奇心が頭をもたげた。
僕はその雑居ビルを見上げてみた。1階はスポーツ用品店、3階以上はすべて繊維会社のオフィスで占められているようだ。となると、彼女、彼らが向かった先は2階の一角のはず。僕はめぼしい看板を探した。

2階には、「木下行政書士事務所」(仮名)の看板。『もしかして、あれかも?』と思った。というのもほかの看板は、どれも学生さんには用事のなさそうな会社ばかりだったからだ。

それまでも、行政書士という言葉くらいは僕も知っていた。たしか国家資格だったはず。しかし、行政書士がどんな仕事をしているのかはわからなかった。まして、行政書士とコンピュータ学校の学生の関係となるとさっぱり見当がつかなかった。
しかしなぜだかその日ことは、僕の意識にひっかかった。もしかしたらビルから出てきた女性の一人が、韓国のある映画俳優に少しだけ似ていたからかもしれない。僕はその女優が、婦人警官役でハチャメチャやってたラブストーリーとかけっこう好きだったから。


その頃から部屋で過ごす時間は、目的のない求人サイトの閲覧から、資格のホームページを見ることに変わっていた。
行政書士がどんな仕事かもだんだんと分かるようになっていた。かんたんに説明すると、国や都道府県、区や市など役所に届け出る書類を、会社や個人に代わって書いて提出するのが行政書士だ。
行政書士が扱う書類の範囲はすごく広い。建設業許可、風俗営業許可、自動車、会社設立、相続・遺言…。ホントにもう、なんでもありって感じ。実際、行政書士が扱う書類は1万種類を軽く超えていて、僕も初めてそのことを知った時は驚いた。

そして例の留学生たちが行政書士事務所をたずねていた理由もわかってきた。おそらくビザの手続きをするためだろう。国際業務も行政書士の仕事のひとつなのだ。
『フードショップで学生のバイトさんと働くのもいいけど、日本で勉強や仕事をしたい外国人の手助けをするのもいいかもしれない』。そんな風に思えた。


僕はその頃、ちょっとした資格ウオッチャーになっていた。
国家資格には、社労士や税理士、宅建主任者とかいろいろある。
もちろん司法試験とか司法書士とかも(『お前には逆立ちしてもムリ』、とは思ったが)。
『お金の計算ばかりの仕事はできないから税理士もムリだな』、そんなことを考えならが、僕はネットでいろんな資格の品定めをするようになっていた。

もちろんそれは、雑居ビルで会った彼女のことが忘れられなかったからではない。しかし僕の意識は、だんだんと行政書士の仕事に傾いていったようだ。
その理由は、行政書士は独立開業できる資格だったからだ。しかも開業型の国家資格のなかで、そんなにお金を掛けずに開業の準備ができそうなのも行政書士だった。
『行政書士なら、自分にもやれるかもしれない』、そんな気がした。

小林さんが退職した日から、もう半年近くが過ぎていた。
振り返ってみればその半年間、僕はずっとモヤモヤした気持で過ごしてきた。
なんて表現したらいいのかわからない、どうにも中途半端な気分。
ずっといまの会社で働き続ける気にもなれないし、かといって何か先の目標が見あるわけでもなかったのだ。

でも行政書士のことを知るようになってからは、将来の自分が少し想像できるようになっていた。
もう会社の都合に左右される生き方は、僕にしてもイヤだった。
サラリマーを辞めてしまうのが怖くないわけじゃない。本音を言うとかなり怖かった。
だけど、本気になれるものが見つかって、自分のなかに熱いものを感じているのもたしかだった。
「やらないで後悔するより、やってしまって後悔する方が人生は幸せ」
どこかで聞いたことのあるそんな言葉を思い出した。
僕も挑戦を始めようと決めた。
季節は梅雨も明け、ジャケットを着ていると汗ばむ初夏のころだった。


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