Profile

プロフィール
広川雄一(仮名)、28歳。石川県出身。私立大学経済学部卒(写真部)。 大学を卒業後、ファーストフードチェーン店に就職。入社から6年、先輩社員の退職がきっかけで、行政書士の資格を目指すようになる

(c)2009 行政書士 合格体験記

(2)社会人になってから、こんなに仕事に身が入らなかったことはない

フード産業が、サービス業が好きなことは、僕にしても同じことだった。
僕は、学生の頃のアルバイトの延長線上で、この仕事を選んだのだと思う。
厨房の中での一体感が好きだったからだ。シフトに入っている誰かが風邪で熱を出し、店長に「たのむ広川、今晩シフトに入ってもらえないか?」と携帯が入れば、コンパをパスしてピンチヒッターを引き受けたこともあった。
普通の会社組織にはない、どことなくサークルのノリに近い(仕事だからそんなには甘くないけど)一体感が好きで、僕はフードビジネスを就職先に選んだのだ。

そんな考えで就職先を決めるのは甘い、と人は言うかもしれない。でも就職をしてからも僕は充実して生きてきた。入社をして半年後には店長になっていた。店で采配を振るうことができた。学生の頃の僕がそうだったように、バイトさんたちにムリをお願いしたこともある。だけど彼らは快く承諾してくれた。
「広川さんにたのまれたら断れてないですよ」。そんな厨房仲間でつながった関係が、僕もやっぱり好きだった。
「ノルマノルマで、ホントもうつまんねぇ…」、かつての同級生が自分の仕事のことをそんな風にボヤくのを聞いていると、自分は幸せなんだなと思えたこともあった。

だけど、小林さんのことがあってからは僕の気持ちもちょっとずつ変わっていった。
「俺ももうすぐ30歳だ。30から先もずっとこのままでいいのかな?俺の人生…」。
そんなことを考えることがだんだんと増えていった。

店長の仕事はキツイけど楽しい。
だけどこの先もずっと同じでいいの?このままいまの会社で出世をしたら、会社エリアマネージャー→ブロック長→本部社員。
『だけどお前、自分は組織人には向いてなと思っていたよな!?』、そんな自問自答を繰り返していた。これから先のことを本気で考えるには、いまがいいタイミングなのかもしれない。そんな風に考え方が変わっていったのだ。

よくないことだが、あれほど大切にしていた厨房の仲間たち(当時20名くらいの人たちをシフトで回していた)への気持ちが、がだんだん色褪せていく気がしてならなかった。
バイトのみんなはいつものように元気で頑張ってくれている。
『バカ野郎、店長のお前が気を抜いてどうする』、自分で自分を何度もいましめた。

だけど正直、自分の気持ちは、バイトのみんなより小林さんの身の振り方の方を向いていた。
どうしても、以前のようには仕事に身が入らなくなっていた。
そんな自分のことを悟られてないように、厨房では、一層元気を装った。
「最近の店長、なんだかヘンじゃないですか?」
カンのするどい女子大生にそう指摘されて、ちょっと慌ててたこともあった。

その頃の僕は、店を閉店したあとでバイトのみんなと食事をすることも少なくなっていた。
店の戸締りをすると、さっさと部屋へ戻った。
そして缶ビールをチビチビやりながら、特に目的もなく転職サイトを眺めていることが多かった。


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